ずいぶんと前から予定くださっていた寄席。
穴を空けるわけにはいかないので、雪の東北から無事帰り着けてひと安心。
チャーミー社長(ダンナ)がポスピスに入院しているとき、私の落語のことで中国新聞の取材をうけた。
私の落語を応援し、支えてくれていたということで、チャーミー社長と一緒の写真が新聞に載った。
それを読んで、ぜひにと依頼してくださった。
今日期待されているのは、私の「おはなし」と落語。
講演みたいに分けずに、最初から座布団の上で話をさせていただいた。
備忘録
牛ほめ
カラオケ病院
いつもはまくらも必ずオチをつけなくてはいけないので、伝えたいことについてもいいオチが考え付かなくて喋らず帰ることも多々ある。
今日はそこまでオチを気にしなくてということで、心の底に大切にしまってある、ダンナの思い出と、いろんな夫婦、男と女のこだわりの違いなど喋って、『ピンクレシートの日』(立花亭小道作)をかけようと思っていた。
ダンナが亡くなってから暫くの時が流れたから、少しはダンナのことを人に伝えることもできるかなと思った。
でも喋ろうとすると涙がこみあげてきて、高座で言葉が出なくなる。
気をつかわせたお客様、ごめんなさい。
上手く話せなかったけど、一生懸命聞いていただきありがとうございました。
とてもその状態からネタ下しの『ピンクレシートの日』で笑いに戻す自信がなかったので、急きょ、大好きな噺『牛ほめ』に替える。
「大変だ〜!すぐ来て!」
癌の治療のため体調が悪く、会社を休んで自宅で寝ていたチャーミー社長が大声で呼ぶ。
テレビの中は地獄絵…関東大震災の津波の映像を呆然と見つめるチャーミー社長と私。
テレビの映像の中で家や車や人間や…飲み込まれていく。
早く逃げて!
人間の命って…
病気と闘いながら、何度も死にそうになりながらもチャーミー社長は生きている。
死なんて考えたこともない人たちの命が、一瞬にして飲み込まれていく。
人間って強いの?弱いの?よくわからない。
でも人間の力ではどうにもならない次元の…
チャーミー社長が私を呼ぶ叫び声と、その衝撃の映像がずっと私の頭の中にある。
消そうと思っても消えない。
私の時間の半分は、ここで止まったままである。
この時点ではダンナは病気との闘いに勝ち抜いていつか元気になってくれると信じていた。
病院に入院中も看護師さんや患者さんにおやじギャグで笑いを振りまいていた。
落語は人生そのものだな…と言っていた。
あまりの治療の苦しさと、治療に耐えるだけの体力がなくなってしまったことから、生きるために戦うのではなく、少しでも苦しくない、楽しい時間を取れるような生活に切り替えることに決断する。
ダンナがホスピスに入院してから気をつけていたこと。
決して喧嘩をしない。
もちろん言い争いになったりすることもある。
つらいからワガママをいうときがあるのはあたりまえ。
でも部屋を出るとき、暫くそばを離れるときは必ず仲直りする。
「あなたのことが大好きだ。」
「一緒になれてよかった」
「ありがとう」
「幸せだ」
喧嘩や皮肉で別れたまま、そのまま一生会えないようなことがあれば、きっと苦しくてたまらない。
うまく歩けなくなったダンナが、トイレの付き添いがまてずによく転んで頭を打つので、私も病院に泊まりこめるようにしていただいた。
ダンナの付き添いと、ダンナの実家の義父さんのための買い物や食事のしたくと、生活のためのバイトと…
寝る時間が少なく、精神的にも肉体的にもいちばんきついときだったかも。
でも泣くわけにはいかない。
私はいつも笑っていなくちゃ。一緒にいられるだけで幸せなんだから。
何かのときに私が「スッポンを食べたことがない」と言ったら、「今度一緒に食べよう」と言った。
スッポンってスーパーなんかで売ってるの見たことないし、痛み止めの麻薬の点滴がずっと入ってるから、電源から離れて出かけるのは難しくなっていた。
近くにない。お店の予約を調べたり、ネットでの取り寄せを調べている間に、チャーミー社長はものが呑み込めなくなってきた。
そのうちお茶を飲みこむのも上手くいかなくて、器官の方に入ってむせると私ではうまく治してあげることができない。
苦しそうな姿を見ているのはつらい。
でも目を離しちゃいけない。
チャーミー社長はお酒が好きだった。
病気になってからはガマンしていた。
ホスピスでは、飲んでもいいと言われたが、熱をだしたり、傷があったりと、「明日楽になったら少し飲もうか」と言ってるうちにとうとう飲めなくなった。
気持ちの底にずっと忘れられない思いがある。
近いうちでいいや、とか、明日…ではなく、大切なことは「今」しておかなくては!
なるべく沢山笑って、なるべく幸せな気分でいられますように。
少しでも笑顔を増やせますように。
うまくまとまらないけど、伝えたかったことの一端をここに書いておく。
自分の気持ちを自分の言葉で、面白おかしく伝えることができるようになるまで、もう少し時間をくださいね。
わいん頑張ります!
呼んでいただいてありがとうございました。